膝蓋骨粉砕骨折に対する極意書
0. 術前計画&手術戦略
膝蓋骨の粉砕骨折は術前計画が重要で、軸射像、側面像、正面像の3方向で評価します。
Himawari Score(Helios injury management of warning rim score) に基づき術前計画を立てます。
Himawari Score
Himawari scoreでは、
1.軸射像で内外側の辺縁の骨片の転位の程度
2.側面像で下極の粉砕の程度
3.正面像で骨片群の転位の程度 によってそれぞれGrade 分類を行います。
特に外側の骨片の整復不良は長期的に二次性の関節症を引き起こします。また、下極が粉砕している場合は、術後の脱転や再転位の合併症を防ぐためにも刺入位置に注意が必要です。
膝蓋骨外側や下極は軟部組織に覆われており、術中の透視を駆使して、整復、固定、ピンの刺入を確実に行うことが重要です。

1. 体位・皮切・展開
体位
iFAV/術中軸射像(intra-operative fluoroscopic Axial View)
SR Grade 1,2の場合は、術前に患側の膝を軽度屈曲して膝を下から持ち上げつつ、趾尖部を内側に避けながら足関節を進展させてアームをベッドギリギリに配置します。足趾がベッドの端に来るまで体を下げます。健側の踵部分がベッドの端で圧迫されないよう保護します。術中は助手が健側に立ってそれを再現できるように体位と角度を確認します。さらにその位置からCアームを上げながら頭側に移動して反転させることで側面像が見れることを、術中に透視を操作する人と確認しておきます。


皮切・展開
皮切は下極の処理がしやすい縦切開を推奨します。
皮切は膝蓋腱の脛骨付着部まで伸ばして手術操作で膝蓋腱を巻き込まないように細心の注意を払います。膝蓋骨の下極の先端から上極に向けてピンを刺入するためには、これくらいの皮切が必要になります。
膝蓋骨粉砕骨折では、皮下が損傷されていることが多いのでできるだけ骨膜まで鋭的に切離して骨膜上で膝蓋骨全体に剥離をすすめることが重要です。

2. 整復
FG Grade 1,2の場合
骨片が上下に分かれていることが多いので、上極の骨片と下極の骨片をまとめて、最後に側面像で主骨片どおしを合わせます。主骨折線が縦の場合は上極、下極の骨片を合わせてから、軸射像でない外側の骨片を合わせることもあります。
外側骨片の整復・刺入
正面像で、骨片群を大まかに分けて整復する順序を決めます。まずは、軸射像で内側、外側の辺縁の骨片を合わせて、上下の2骨片にしてから側面像で整復する事が多いです。
SR Grade 1,2の場合
Grade 2の場合、外側骨片が更に外側に転位して「お辞儀」している事が多く、確実に関節面を合わせてiFAVを駆使して正確な位置にHeliosピンを刺入することが重要です。このとき、辺縁の小さい骨片から、大きな主骨片に向けてHeliosピンを刺入します。

下極骨片の処置
LP Grade 1,2の場合
下極に骨折線が及ぶ場合は下極の先端からHeliosピンが刺入されることを透視で確認します。膝蓋腱を電気メスで切離して刺入部を確保します。さらに骨片が前後に割れている場合は、深層の骨片にピンを配置する事が重要です。




下極の骨片は膝蓋腱により下方に引き下げられる力がかかるので、2本以上のHeliosピンを平行に設置せず、クロスに刺入するほうが引き抜き応力には強いです。
また下極の骨片だけではなく、中央部の骨片が前後に割れている場合は、関節面ギリギリを狙って、深層の骨片にHeliosピンを配置します。(黄色矢印)
また下極が粉砕したり薄く菲薄化した骨片の場合は、軟部の剥離を最小限にして粉砕した骨片からHeliosピンを刺入します。それを骨に対する固定性が弱くても、それをアンカーとしてケーブルを周辺と前方で締結して軟部組織ごと固定することができます。
この時に膝蓋腱にKrackow stitchをかけて骨折部から骨内を通って上極に引き出して締結する手技を追加することもできます。18G針を用いて糸を誘導し、そのままHeliosピンを刺入すれば糸を切ってしまうことはありません。

関節面の評価
上下の骨片を合わせるまでは関節面を観察して整復を確認できますが、骨片を合わせた後は整復位を確認することは難しいです。
関節面の適合性を評価するためには膝伸展位で、中間位だけではなく、内旋位で内側の関節面、外旋位で外側の関節面を評価して骨片が回旋して整復されていないかをチェックします。

3. 周辺締結
ピンの打ち込み
ひまわり法において、ピンのスリーブは軟部組織を剥離して骨に密着する必要はなく、軟部組織の厚さの分だけ骨から離れていることも許容できます。膝の屈伸で軟部組織と干渉しない程度にスリーブを打ち込んでおく必要があります。
ケーブルの周辺締結
まずは、最も不安定な骨片の反対側からケーブルを深層のスリーブの穴に通し、周辺を回してそこで終わるようにします。


ケーブルを通すときにはEZマヌーバーが秀逸です。軟部組織の下を通したり、ケーブルをスリーブに通す時にスリーブの出口でEZマヌーバーにケーブルを誘導すると軟部組織と干渉せずに通せます。


圧着固定
EZ クリンパーを手術台に対して水平に挿入した後、立ててピンのスリーブを把持するようにすると圧着しやすいです。EZ クリンパーのストッパーがスリーブに当たるまで確実に押し込んでからスリーブを圧着してください。


4. 前方締結
ケーブルの前方締結

残ったケーブルを対側のスリーブの腹側に通す事で、膝蓋骨前面の前方締結ができます。どのようにケーブルを膝蓋骨前方 に回し掛ければ、より良い固定性が得られるかケーブルを回し掛けしてシュミレーションしてください。すべての骨片の上にケーブルが配置されるようにすることが重要です。
膝関節屈伸運動をおこない、膝蓋骨前面の骨片の安定性を確認します。さらに安定させたい骨片が残存している場合は、その骨片に前方締結が加えられる位置にHeliosピンを1本追加して、前方締結を追加してください。



ケーブルの切断と把持部の折り取り
すべての前方締結の圧着固定が終了したら、残ったケーブルをEZカッターで切断します。最後にEZツイスターを用いて、Heliosピンの把持部を左右に振って折り取ってください。背側に振って折り取るとヘリオスピンが骨の出口で背側に曲がって締結が緩んでしまう可能性があります。

5. 後療法
術翌日から屈曲角度の制限はなく可動域訓練を開始します。膝伸展位での荷重歩行も許可します。筋力が回復するまでは、膝伸展位を保持する装具を併用します。
屈曲位での荷重は術後6週まで控えるように指導します。
常に研究・改良に努めておりますので、仕様の一部を変更する場合があります。あらかじめご了承ください。
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ひまわり法手術器械 (Helios Locking Pin Sleeve System)に関しては こちらより